ボーカルのコンプレッションは、音の聞こえ方に応じて設定を調整することで、ミックスの中で理想的なサウンドを実現します。ここでは、特定の音の聞こえ方に対して、どのようにコンプレッションの設定を調整するかを具体例を交えて解説します。
1. ボーカルが不安定で音量が一定しない場合
問題の特徴
- 聞こえ方: ボーカルの音量が一定せず、部分によって大きすぎたり小さすぎたりする。特に静かな部分が埋もれて聞こえにくい。
推奨設定
- スレッショルド: -15dB
- レシオ: 2:1
- アタック: 10ms
- リリース: 80ms
- メイクアップゲイン: +3dB
調整の意図
この設定は、軽いコンプレッションを行い、ボーカルの音量を均一に保つことを目的としています。スレッショルドをやや低めに設定し、音量が不安定な部分をしっかりとキャッチして圧縮します。リリースを適度に設定することで、ボーカルが自然な流れを保ちながら聞こえるようにします。
結果の変化
- ボーカルの音量が安定し、ミックスの中で一貫して聞こえるようになります。静かな部分もはっきりと聞こえ、大きな部分が突き出ることがなくなります。
2. ボーカルが感情的な部分でピークが突き出る場合
問題の特徴
- 聞こえ方: ボーカルが感情的に盛り上がる部分や特定の言葉で、音量が急に大きくなり、他のトラックとのバランスが崩れる。
推奨設定
- スレッショルド: -10dB
- レシオ: 4:1
- アタック: 5ms
- リリース: 50ms
- メイクアップゲイン: +2dB
調整の意図
この設定では、スレッショルドをやや高めに設定し、ピークが目立つ部分をしっかりと圧縮します。レシオを高めにすることで、ピークの突き出しを効果的に抑えます。また、速いアタックタイムを設定して、急激な音量の変化を素早くキャッチして抑制します。
結果の変化
- ボーカルのピークが適切に抑えられ、他の楽器とのバランスが保たれます。感情的な部分でも、ボーカルがミックスの中で調和し、自然に聞こえます。
3. ボーカルが薄く、ミックスの中で埋もれてしまう場合
問題の特徴
- 聞こえ方: ボーカルが他の楽器に埋もれてしまい、力強さや存在感が感じられない。全体的にボーカルが弱々しく聞こえる。
推奨設定
- スレッショルド: -18dB
- レシオ: 3:1
- アタック: 15ms
- リリース: 120ms
- メイクアップゲイン: +4dB
調整の意図
この設定では、スレッショルドを低めに設定し、ボーカル全体をしっかりと圧縮して、音量を持ち上げることを狙います。アタックタイムをやや遅くすることで、ボーカルの立ち上がりを自然に保ちつつ、全体的な厚みを加えます。リリースを長めに設定することで、ボーカルが滑らかに持続し、他の楽器に埋もれないようにします。
結果の変化
- ボーカルがミックスの中でしっかりと前に出て、存在感が増します。力強さが加わり、他の楽器とのバランスがより良くなります。
4. ボーカルのアタックが強調されすぎて耳障りな場合
問題の特徴
- 聞こえ方: ボーカルのアタック(音の立ち上がり)が強調されすぎており、特に「T」「P」「K」などの音が目立ちすぎて耳に刺さる。
推奨設定
- スレッショルド: -12dB
- レシオ: 4:1
- アタック: 3ms
- リリース: 100ms
- メイクアップゲイン: +2dB
調整の意図
この設定では、アタックタイムを非常に速く設定し、ボーカルの立ち上がりをすばやく抑えます。これにより、過度に強調されたアタックが和らぎ、全体のサウンドがよりバランス良くなります。リリースを適度に設定することで、自然なサウンドを保ちつつ、アタックをコントロールします。
結果の変化
- ボーカルのアタックが抑えられ、耳に刺さるような音が減少します。全体的に滑らかで聴きやすいサウンドになります。
5. ボーカルに厚みと力強さが足りない場合
問題の特徴
- 聞こえ方: ボーカルが全体的に薄く、ミックスの中で存在感がない。力強さが不足しており、弱々しい印象を与える。
推奨設定
- スレッショルド: -20dB
- レシオ: 3:1
- アタック: 20ms
- リリース: 150ms
- メイクアップゲイン: +5dB
調整の意図
この設定では、スレッショルドを低くして、ボーカル全体を強く圧縮し、メイクアップゲインで音量を持ち上げます。アタックタイムを遅めに設定することで、ボーカルの立ち上がりを自然に保ちながら、全体に厚みを加えます。リリースを長めにすることで、ボーカルがしっかりとした持続感を持ち、力強く聞こえるようにします。
結果の変化
- ボーカルがミックス全体で力強く、厚みのあるサウンドになり、リスナーに対して強いインパクトを与えます。
まとめ
ボーカルのコンプレッションは、聞こえ方に応じて適切に調整することで、ミックスの中で理想的なサウンドを作り出すことができます。各設定を音の特性に合わせて微調整することで、ボーカルのダイナミクスをコントロールし、プロフェッショナルなサウンドを実現しましょう。実際のミックスでこれらのテクニックを試してみてください。